心弾ませときめいていたお鈴。涼助が会いに来てくれるのを心待ちにしていました。
もしかしたら、涼助は自分に惚れて、迎えに来てくれるかもしれない、涼助こそ夫婦の契りを結ぶ運命の相手かもしれない・・・。
考えれば考えるほど、頬が緩んでいきます。
そして三日後。約束の日が来ました。
お鈴は、幸せな未来を想像しながら、長く感じる日々を過ごしていましたが、結局この日、涼助は来てくれませんでした。
その後も涼助のことが気になり、仕事も手につかず、何度客に茶や水をこぼしたことか・・・。
初めて会った日の涼助の様子を思い浮かべれば、自分のことを好いてくれているのはわかった。では、なぜ来てくれないかといえば、涼助の身に何か起こったからかもしれない・・・。
もしかしたら、他の女にちょっかい出されて困っているかもしれない。
涼助がお鈴に会いたくて会いたくて恋焦がれ、胸苦しくなって川に飛び込んで、瀕死の重傷を負っているかもしれない!!
考えれば考えるほど、悪い想像に包まれていきます。
気になる、会いに来てほしい、会いたい・・・。
その時、にゅうっと、お鈴の首が伸びたような、気のせいのような・・・。
次の日も、お鈴は涼助をひたすらに待ちました。が、これまた来ません。
いっそのこと、自分から会いに行きたかったのですが、水茶屋の仕事と、それが終われば、病で床に伏している母の世話があり、お鈴は動くに動けない状態でありました。
やきもきしながら過ごして十日目の朝、お鈴の我慢も限界を超えました。
頭の中は不吉な想像でいっぱい。一目会いたい。
もう一度涼助の姿を見れば、とりあえず安心するだろう。もうほとんど無意識、会いたい一心でお鈴の首は、にゅーっと伸びました。
伸びて伸びて、涼助がいるはずの町へ、首は向かったのです。
町は大騒ぎとなりました。思いつめた表情をした顔、首が、目の前を通り過ぎていきます。
人の足で歩けば、小半時(三十分)もかかるような距離を、伸びっぱなしで、うろうろとさまよい続けたお鈴の首。やっとのこと、涼助の姿を見つけました。
涼助は、木の側にぽつんと立ちながら、何やら考え事をしている様子。
お鈴は、自分の為に思いつめているのではないかと、気になって仕方がありません。
そっと涼助の後ろに回り込みます。
すると涼助は、難しい顔をしながら、ゆっくりと歩き出しました。
木の側から、隣の木の側へ。また、隣の木の側へ。
涼助は考え込みながら、器用に並木道を歩き、端まで来たら、また道を戻ります。
その動きに合わせて、お鈴の首も、ゆっくりと静かに後ろからついていきます。
すると突然、涼助は後ろを振り向きました。
咄嗟に逃げようとしたお鈴ですが、首が動かないことに気付きました。
木々の幹に、見事に首が絡みついて、がっしりと固定されていたのです。
涼助は、お鈴に話しかけました。
「お鈴さん、最近娘さん達を連れ去り町を騒がせていたのは、あなたですね。」