【絵本】『噺して しゃるろっと』 ろくろっくび

 



心弾ませときめいていたお鈴。涼助が会いに来てくれるのを心待ちにしていました。
 
もしかしたら、涼助は自分に惚れて、迎えに来てくれるかもしれない、涼助こそ夫婦の契りを結ぶ運命の相手かもしれない・・・。
 
考えれば考えるほど、頬が緩んでいきます。
 
そして三日後。約束の日が来ました。
 
お鈴は、幸せな未来を想像しながら、長く感じる日々を過ごしていましたが、結局この日、涼助は来てくれませんでした。
 
 
その後も涼助のことが気になり、仕事も手につかず、何度客に茶や水をこぼしたことか・・・。
 
初めて会った日の涼助の様子を思い浮かべれば、自分のことを好いてくれているのはわかった。では、なぜ来てくれないかといえば、涼助の身に何か起こったからかもしれない・・・。
 
もしかしたら、他の女にちょっかい出されて困っているかもしれない。
 
涼助がお鈴に会いたくて会いたくて恋焦がれ、胸苦しくなって川に飛び込んで、瀕死の重傷を負っているかもしれない!!

 

噺してしゃるろっと ろくろっくび8

 



考えれば考えるほど、悪い想像に包まれていきます。
 
気になる、会いに来てほしい、会いたい・・・。
 
その時、にゅうっと、お鈴の首が伸びたような、気のせいのような・・・。
 
 
次の日も、お鈴は涼助をひたすらに待ちました。が、これまた来ません。
 
いっそのこと、自分から会いに行きたかったのですが、水茶屋の仕事と、それが終われば、病で床に伏している母の世話があり、お鈴は動くに動けない状態でありました。
 
やきもきしながら過ごして十日目の朝、お鈴の我慢も限界を超えました。
 
頭の中は不吉な想像でいっぱい。一目会いたい。
 
もう一度涼助の姿を見れば、とりあえず安心するだろう。もうほとんど無意識、会いたい一心でお鈴の首は、にゅーっと伸びました。
 
伸びて伸びて、涼助がいるはずの町へ、首は向かったのです。
 
町は大騒ぎとなりました。思いつめた表情をした顔、首が、目の前を通り過ぎていきます。
 

 
 

噺してしゃるろっと ろくろっくび9

 
 



人の足で歩けば、小半時こはんとき(三十分)もかかるような距離を、伸びっぱなしで、うろうろとさまよい続けたお鈴の首。やっとのこと、涼助の姿を見つけました。
 
涼助は、木の側にぽつんと立ちながら、何やら考え事をしている様子。
 
お鈴は、自分の為に思いつめているのではないかと、気になって仕方がありません。
 
そっと涼助の後ろに回り込みます。
 
すると涼助は、難しい顔をしながら、ゆっくりと歩き出しました。
 
木の側から、隣の木の側へ。また、隣の木の側へ。
 
 
 

噺してしゃるろっと ろくろっくび10

 



涼助は考え込みながら、器用に並木道を歩き、端まで来たら、また道を戻ります。
 
その動きに合わせて、お鈴の首も、ゆっくりと静かに後ろからついていきます。
 
すると突然、涼助は後ろを振り向きました。
 
咄嗟に逃げようとしたお鈴ですが、首が動かないことに気付きました。
 
木々の幹に、見事に首が絡みついて、がっしりと固定されていたのです。
 

 
 

噺してしゃるろっと ろくろっくび11

 



涼助は、お鈴に話しかけました。
 
「お鈴さん、最近娘さん達を連れ去り町を騒がせていたのは、あなたですね。」

 
 
 
 

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