えー、さて。今日は妖怪の話を一つ。
いつの時代も、妖(あやかし)といいますものは、怖ろしく、魅せられ、惹かれるものでございます。
ある時、ある所で、町の娘達が何者かによって襲われる事件が多発しておりました。
その事件とは、拐かしされただの、体を縛られただのと、大変物騒な話でございました。
さらに怖ろしいことに、「この事件の犯人は、女ではないか」「どうも色恋沙汰が関係しているのではないか」という噂が町中に広まっておりまして・・・
怖ろしいのは、それだけではございません。
「まったく捕まらないのは、犯人が妖の類いではないか」、なんて話も広まっておりました。
襲われた恐怖で、娘達は固く口を閉ざしておりましたが、怪しい噂だけは、どんどん広まっていきます。
それにしても、ただでさえ女の嫉妬は怖いものですが、それがまた、女の妖怪の仕業となると、怖ろし過ぎて誰でも震え上がっちまいます。
とにかく、少しも尻尾を捕まえられない・・・。
そんな中、「涼助」という男が立ち上がりました。
この男、女が羨むほどに、白く透明な肌を持ち、顔は目元、口元きりりの男前、役者さながらの、放つ光も一味違います。
ただ綺麗な顔をした優男かと思いきや、男気、粋があり、要はこの界隈、女子達の間では、一番の人気者、好男子というわけでございます。
この涼助が、真っ先に目を付けたのは、水茶屋で働く「お鈴」という器量良しの娘。
年は、二十三歳。これまで五回結婚を申し込まれていたが、そのどれも失敗に終わっているらしい。
そして、相手の男達は、皆他に相手を見つけ、結婚を済ませている、らしい。
五度も結婚の機会を逃しているのは、何か訳があるのではないか、この男女の問題、今回の事件と何か繋がるものがあるかもしれない、と考えてのこと。
早速、涼助は、このお鈴という娘に会いに行きました。
「こんにちは。突然すみません。私は、一つ目町の涼助というものですが・・・。あなたがお鈴さんですか。」
「・・・はい、私はお鈴ですが・・・何か?」
「お鈴さんはとてもお綺麗な方だ。なに、町中の噂になっているんですよ。
水茶屋で働いているお鈴という娘さんが、そりゃあもうべっぴんさんだと。あまりにも男たちが騒いでるもんで、私はもう我慢が出来なくて、こうして会いに来ちまったってわけです。お恥ずかしい話で・・・。」
「いえ、そんな。」
男達に綺麗だと噂されていると知っただけでなく、一人の男が自分に会いに来てくれて、更にその男が良い男。
お鈴は、頬を赤く染めました。
それを見逃さなかった涼助、お鈴にこう言いました。
「三日後、またあなたに会いに来てもいいでしょうか?今日はあいにく用事があり忙しいのですが、どうかまた会ってほしい。」
俯きながら、お鈴は頷きました。
涼助はそれを見届け、にっこりと微笑み、帰っていきました。
これで準備は整った、ということらしい。