複雑な家庭の事情を抱えているエマは、もはや、家の外へ出て、あの記者と会えることが楽しみになっていました。
そして、その日が来ました。今日は森ではなく、街中で会うことになっています。ちょうどこの日は、エマの買い出しの日だからです。
エマが1人で外出できる日は、どこでもいいからできるだけ会いたいと記者は言ってくれました。
継母に言われた食品や日用品を購入した後、記者が教えてくれたカフェで会うことになっていました。
リリーは小さな声で言いました。
「カフェなんて初めてだね」
「そうね。緊張しちゃう。持っているお金で足りるかしら」
エマは、ぎゅうっと首元にあるエメラルドのペンダントを握りました。
サーラと継母と揉めた後は、唯一実の母と繋がっているこのペンダントが、更に愛しく大切なものだと感じられました。
継母達の目の届かないところでは、ポケットの中にしまっておくのではなく、これからは、できるだけペンダントとして身に着けることにしました。
きっとその方が、母も喜んでくれると思えました。
落ち着かない様子で辺りを見回しつつ、エマはカフェの外から、店内を覗きました。
すると、すでにあの記者が席についていて、店内から手を振ってくれていました。
エマはホッとして、カフェの中に入りました。
「お待たせしました」
エマは頭を下げました。
「全然。こちらも今来たところだよ」
記者は笑って言いました。
エマが頭を上げた時、首元で何かが光ったことに、記者が気付きました。
よく見ると、緑色の輝きが美しいエメラルドのペンダントです。
でも正直エマの服装とは合っていません。エマ自身は美しくペンダントも似合っているのですが、全体的に見るとアンバランスです。
大量に購入した物を重そうに抱え、また、よそ行きとはいえない格好をしているエマを見て、正直記者は不思議に思いました。
(こんなに美しく、気品を感じる女性なのに、なぜこの子は地味な格好をしているのだろう。召使いのような扱いを受けているのか。それとも、本当に家事手伝いや清掃業などの仕事をしているのだろうか。それにこのペンダント・・・)
「君が付けているペンダントは・・・」
素通りできないペンダントの存在に違和感しかなく、記者は思わず質問してしまいました。
「これは、亡くなった母の形見なんです。今日はお守り代わりに付けてきただけです。ごめんなさい」
なぜかエマは、とっさに謝ってしまいました。
「ちょっとよく見せてもらってもいいかな?」
「はい」
ペンダントを外そうとしたエマに気付き、記者は、
「このままで。写真を撮らせてもらえる?大丈夫。顔は写さないよ」
そう言って、エマの首元のペンダントだけを撮りました。
いつもと違う記者の様子に、エマは戸惑いましたが、
「美しいペンダントで見とれてしまったよ。ありがとう。お母さんは素敵なものを君に残してくれたんだね」
という記者の言葉に、ほっとしたのと同時に、母のことを褒めてもらえて嬉しくなりました。
それから約束通り、エマが作ろうと思っている料理の数や種類を伝えました。
家族にばれないよう、普段作っている料理以外のもので、全てレシピを一から考えました。大変でしたが、とても楽しい時間でした。
家では試作できないので、当日ぶっつけ本番で作るしかありませんから、真剣に考えました。

エマが記者に伝えた料理は、全部載せてくれることになりました。食材も、全部記者が用意してくれるそうです。
次回は、実際に料理を作る日に会うことになります。
三日後、継母とサーラがパーティーに出掛けます。また、その日、彼女たちは、友人宅へ泊まる予定になっています。
エマは、三日後の夜なら時間が取れると記者に伝えました。
記者の会社には、キッチン設備も充実しているらしく、ぜひうちの会社で、と記者は誘ってくれました。
継母に内緒の外出、しかも夜に外へ出るなんて初めてのことです。正直怖いという気持ちもありましたが、自分の大好きなことを必要としてくれる人もいる、と思うとそれに応えたくなりますし、新しいことに挑戦したいという気持ちも芽生えてきました。
本人は気付いていませんが、エマは少しずつ殻を破り、少しずつ強くなっています。
飲み物は、記者と同じアイスコーヒーを注文しました。これも初めて飲む飲み物です。ほろ苦くてビックリしましたが、慣れてくると美味しく感じてきました。
まだ十八歳のエマは、それだけで、なんだか大人になったような気がします。
リリーはというと、お水を美味しそうに飲んでいます。記者がリリーのために、店員にお願いしてくれました。