【絵本】踊り場のエメラルド

 
 

 
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このように、記者がエマに話を続けている中、二人の側に人影が近づいてきました。
 
それはなんと、エマの継母でした。
 
エマの行動を監視するため、後からついてきていたのです。
 
話の内容は聞こえませんが、エマと一緒にいる男性が、数日前家に来た記者だと気付き、継母は驚きました。
 
しかも、二人の様子は深刻そうであり、また、初対面とは思えない親密さまで感じられます。
 
継母は、姉に感じていたような嫉妬心がまた渦巻いてくるのを感じました。
 

 
 


 

 
継母はその場をすぐ離れ、どうしてくれようかと肩を怒らせて帰りました。
 
 
この日の夜、エマとリリーがぐっすり寝ているところへ、物音を立てないよう注意深く歩く、怪しい影が現れました。それは、継母でした。
 
継母は、寝ているエマに近寄り、そうっとペンダントに触れ、留め具部分を器用に外しました。
 
そして静かに、素早く去ったのです。
 
次の日の朝、エマは目覚めると、真っ先にペンダントが無いことに気付きました。
 
エマは、パニックになり、とにかく周りを探していると、リリーが怒りながら言いました。
 
「サーラが盗んだのかもしれない!僕がこっそり見てこようか?」
 
「大丈夫よ。もう少し探してみるね」
 
そうは言ったものの、寝る前にもペンダントがあることは確認したはずなので、エマ自身もその可能性がないとは言えないと思えてきました。
 
でも、それも勘違いで、やはりただ自分が落としただけかもしれない・・・。勢いに任せて問いただすのは危険と思い、まずは焦らず、様子を見ることにしました。
 
いつものように、エマは朝早くから家事を始めました。仕事を早く終わらせて、ペンダント探しの続きをしたかったのです。
 
午前十時頃、ゆっくりと起きてきたサーラがやけにニヤニヤして、エマに近づいてきました。
 
サーラが、いかにも自分を見てほしそうな態度をしめしています。
 
エマが床を拭きながら見ると、なんと、サーラはエメラルドのペンダントを付けていたのです!
 
「これ、ママに買ってもらったのよ」
 
「・・・」
エマは、言葉が出てきませんでした。
 
不安な気持ちと、疑心暗鬼で胸が苦しくなり、もう何を信じたらいいのか、どうしたらいいのか分からなくなってきました。
 
エマを見ながら、サーラは続けました。
 
「そういえば、昨日ママが森に行ったそうだけど、あんたのペンダントのようなものが落ちてたかもって言ってた気がする。あれ?じゃあこのペンダントって・・・?」
 
訳が分からない感情でいっぱいになり、エマは、吐き気がしてきました。限界でした。床を拭いていた布はそのままに、家を出て走り出しました。
 
リリーもエマの後を追いました。
 
 
エマ達が家を飛び出したそのすぐ後、ある者達の訪問で、継母達の家は一気に張り詰めた空気に変わり、緊張感が漂っていました。
 
たずねてきたその者達の見た目からして、身分の高い方達だということは、すぐにわかりました。
 
継母は身構えていましたが、向こうからの好意的な雰囲気にホッとして、相手に失礼のないように笑顔で対応しました。
 
そのうちの一人は、なんと、王子のように見えます。
 
側には、仕えている五人の侍従がおり、その中で一番年長者と思われる男性が、継母にたずねてきました。
 
「私達は、ある女性を探しています。その方は、エメラルドのペンダントを持っているはずなのですが、心当たりはありませんか」
 
「エメラルドのペンダント・・・」
 
継母は、すぐにそれがエマのペンダントのことだと気が付きましたが、相手の出方を見て、即答はしませんでした。
 
声をひそめて、侍従が続けます。
 
「これは内密にしていただきたいのだが・・・。その女性は、行方不明だった我が国の王女である可能性が非常に高い」
 
それを聞いた継母は、自分の姉のことや、エマが初めてこの家に来た時のことを思い出し、今ここで何が起きているのか、ぐるぐると頭を働かせて考えました。
 
この者達が探しているだろうと思われるペンダントは、今はサーラが持っています。
 
継母は、このタイミングの良さに内心喜び、満足そうな笑みを浮かべながら言いました。
 
「その娘でしたら、うちのサーラのことだと思います。昔森の中でバスケットに入った赤ん坊を見つけたのですが、ずっと生みの親が現れず、それから今まで大事に育ててきました」
 
侍従は、その話を聞いた王子の表情が一瞬で変わり、いぶかしむ様子を見せたことに気付きました。
 
「そうですか。それでは、その女性と会わせてもらえるかね」
 
「もちろんです」
 
継母は、(私に合わせなさい)というように目配せしながら、サーラを連れてきました。
 
部屋の奥でなんとなく話を聞いていたサーラは、これはチャンスかもしれないと思いました。
 
憧れの王子が目の前にいますし、王族の一人として、王女として、この先豊かな暮らしができるかもしれません。
 
王子をまっすぐ見て、サーラは微笑みながら言いました。
 
「エメラルドのペンダントは、いつも大事に付けています」
 
首元のペンダントを軽く持ち、アピールしました。
 
「おかしいですね。行方不明の王女の瞳の色は、緑色だそうです。あなたの瞳の色は、茶色に見えますが」
 
そう言う王子を守るように、侍従が少し前に出て言いました。
 
「あなたが王女ではないとすると、このペンダントは盗まれた物になりますが」
 
それを聞いた継母とサーラは、二人同時に一気に青ざめました。
 

 
 


 

 

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